大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

高松高等裁判所 昭和54年(う)81号 判決 1979年6月25日

主文

本件控訴を棄却する。

理由

本件控訴の趣意は、記録に綴つてある弁護人佐藤進作成名義の控訴趣意書に記載のとおりであるから、ここにこれを引用し、これに対する当裁判所の判断は次のとおりである。

昭和五一年法律第六八号による改正前の廃棄物の処理及び清掃に関する法律(以下単に法という)一四条一項は本文において「産業廃棄物の収集、運搬又は処分を業として行おうとする者は……知事の許可を受けなければならない」と規定し、法二五条においてこれに違反した者に対する罰則を置き、さらに法二九条において「法人の代表者又は法人若しくは人の代理人使用人その他の従業者が、その法人又は人の業務に関し、第二五条から前条までの違反行為をしたときは、行為者を罰するほか、その法人又は人に対しても、各本条の罰金刑を科する」と規定しているところからして自然人ばかりでなく法人も廃棄物処理業規制の対象となることは明らかである。本件において無許可で原判示の廃棄物処理業を営んだ主体が所論のとおり原判示の香川県廃棄物処理協同組合であること、並びに廃棄物の処理に関する契約の締結及びその収集、運搬がその代表者たる被告人の所為に帰せられることは原判決挙示の証拠により認められ、原判決の判示もその趣旨であると解される。そして被告人の右の行為は組合の代表者としての行為であるがこれが組合の機関の行為としてすべて組合自体の行為に転化するものではなく、なお組合代表者個人の行為としても存在するものというべきであるから、被告人は廃棄物処理業の禁止規定に違反する行為をした直接の行為者であるといわなければならない。そして法二五条一号は「……第一四条一項……に違反した者」を処罰する旨規定していること前記のとおりであり、右は自然人である直接の違反者を処罰する趣旨であると解され被告人がこれに当ることは明らかである。

したがつて、被告人は個人として廃棄物を収集、運搬したものではないから法一四条一項、二五条により処罰を受けないとする所論は採るを得ない。

なお、原判決が被告人に対する適条において、法二九条の規定を挙げており、被告人の本件所為に対して同条を適用すべきでないことは所論のとおりであるが、原判決は唯無用の法条を列記しただけでこれがため判決に影響を及ぼすものと認めることはできないから原判決破棄の理由とすることはできない。

したがつて、原判決には理由不備ないし事実誤認の違法はない。論旨は理由がない。

よつて、刑訴法三九六条により、主文のとおり判決する。

弁護人佐藤進の控訴趣意

原判決は、理由不備(刑訴第三七八条四号)または明らかに判決に影響を及ぼす事実誤認(刑訴第三八二条)がある。

一、原判決は、証拠の標目記載の各証拠から、被告人は、香川県知事の許可を受けず、右組合の業務に関し別紙一覧表(一)(二)(三)記載のとおり昭和五〇年五月ころから同五一年八月一七日ころまでの間、四六回にわたり、業として前記許可をうけた建設廃材以外の産業廃棄物である汚でいなどを、善通寺市弘田町二六の五関西化学工業株式会社ほか二か所で収集し、これをその都度同所から香川郡香川町大字浅野中荒二、一一六の一の被告人所有地ほか一か所まで自動車で運搬し、もつて許可を受けないで産業廃棄物の処理業を営んだ事実を認定している。

二、確かに被告人が組合を代表して、関西化学工業株式会社の排出する燃えがら等の廃棄物の処理につき、右会社と直接口頭で処理契約を結んだことはある(深尾健の司法警察員に対する昭和五一年一〇月七日付供述調書)。

また四国工芸株式会社及び日本酪農協同株式会社香川工場の排出する汚でい等の廃棄物については組合の被用者である二宮清憲が組合事業の拡大のために被告人の承諾の下に右両者と処理契約を結んだことはある(林修身及び宮武正則の司法警察員に対する昭和五一年一〇月七日付各供述調書)。

三、しかし、前記三社との各産業廃棄物処理契約主体はあくまで形式・実質共に組合自体であり、かつ右各契約に基く産業廃棄物の収集・運搬・処分は組合自体の行為であつて、被告人個人の行為ではない。

(一) 前記三社に対する処理契約に基く処理代金の請求書や領収書の名義も被告人自身の名義のものはなく、すべて組合名義のものである(深尾健の司法警察員に対する昭和五一年一〇月七日付供述調書添付の請求書のコピー、宮武正則の司法警察員に対する昭和五一年一〇月七日付供述調書添付の請求書及び林修身の司法警察員に対する昭和五一年一〇月七日付供述調書添付の請求書・領収書)。

(二) そして最も前記三社と組合との処理契約の事情を知つていると思われる二宮清憲に対する検面調書(四通)員面調書及び右二宮の原審での証言を検討してみても、右契約の主体はあくまで組合であり、その実践としての産業廃棄物の収集・運搬・処分も組合の事業の一環としてなされ、被告人自身が右契約の主体となつたり、収集・運搬・処分を被告人自身が業としてなした事実は認定できないものである。

(三) 前記三社から受領した処理代金は、組合の会計に入らず、被告人個人の所有に帰したという証拠はない。

(四) 以上を総合して考えれば、被告人が、知事の許可を受けず被告人自身の名を使つて、または組合の名を使つて、業として、産業廃棄物の収集・運搬・処分をしたと認定するに足りる証拠はない。

四、以上のように被告人は個人として廃棄物を収集・運搬することを業とした者ではないから法第一四条一項により処罰をうけるものではないし、法第二九条は法人の代表者が業務に関し法第二五条ないし二八条の違反行為をしたときは、法人にも処罰が及ぶことを規定したものであつて個人の行為であることを理由として法人が処罰を免れることのないようにするのが法意である。

更に述べれば、法第二九条は法人の行為に対しその代表者を処罰する規定ではない。同条にいう「行為者を罰するほか」の行為者は各本条により罰するのであつて、法第二九条により罰するものではない。

五、原判決は罪とならない被告人を処罰しているものであつて、破棄を免れないものである。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例